メガネスーパー・EC事業V字回復の立役者 川添氏が考えるEC事業の成功の秘訣。

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2020.03.31
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メガネスーパーのEC事業のV字回復の立役者であり、ECエバンジェリストとしても活動する、株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長の川添 隆氏。今回は、ご自身の経験から中小・ベンチャー企業がECに取り組む際にどのようなことに気をつければ良いのかというテーマで話を伺いました。ECに新規参入した企業が陥りやすい課題、成長の上限を作ってしまう原因とは。同じくアパレルメーカーでEC事業を経験したソウルドアウト株式会社 執行役員 LINE事業本部 本部長の浅見 剛との対談形式でお届けします。

 

川添 隆(かわぞえ たかし)
株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長
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川添 隆(かわぞえ たかし)
1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。アパレル関連企業を2社経験後、前職クレッジでEC事業の責任者としてEC売上を2年で約2倍に拡大。2013年よりメガネスーパー入社。デジタルに関わる全てを統括し、6年強でEC事業の年間売上は6倍、自社ECの月間受注は13倍に拡大。2018年よりビジョナリーホールディングス執行役員に就任。
(Twitterアカウント:@tkzoe)
浅見 剛(あさみ ごう)
ソウルドアウト株式会社 執行役員 LINE事業本部 本部長
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浅見 剛(あさみ ごう)
アパレルメーカーを経て、2008年に株式会社オプトへ入社。2010年にソウルドアウト株式会社の立ち上げに参画。営業、運用・仕入部門、新規事業部門の本部長を歴任。EC販売代行サービスの他、新規事業立ち上げ支援、LINE公式アカウントの運用支援サービスなどを開発し提供。2018年末のLINE社とSMB領域における戦略的パートナーシップ契約を締結の後、LINE事業本部を新設。2019年4月より現職。

社内におけるECの立ち位置を変えていく

浅見:今回は川添さんのご経験を元に、中小・ベンチャー企業がECにどう取り組むべきかをお伺いしたいと思います。まずは川添さんが参画された当時のメガネスーパーのECサイトの状況について伺えますか。

川添:あくまで僕の印象ですが、社内から見ると存在していないような雰囲気に近かったです。会社全体としては赤字、自社ECは3年以上売り上げが伸びていない。店舗も含めて横の繋がりがほぼなかったという環境が前提ですが、なかでもEC部署は顔と名前が見えていない状況だったと認識しています。

僕自身前職で、女性向けのアパレルの会社にいた際、実店舗がメインの会社におけるECがどういう扱いをされているかを見ていたので、それを前提において改革を進めていきました。実店舗からECに参入する企業の多くは、語弊を恐れずに言えば、ECのお客様をお客様として見ていない部分があります。対面で接しないからよくわからないし、経営陣からしたら既存事業の方が大きい中でECまで目が向かなかったり、EC担当者が報告してくる内容もよくわからなかったり。経営・現場両方に問題があります。

メガネスーパーに入ってから僕の場合はEC事業を任せられ、ある意味勝手に短期的に事業を成長させるしかないと思い、まずはお客様に伝わりやすいようなクリエイティブの改善、メルマガの回数を増やす、即日発送の商品を増やすなどを行い、一定成果が出たタイミングでECシステムを見直しました。やはり数字が物をいう世界なので、お店の基準からすれば前年対比110%が出たらすごいね、150%が続けば「どういうこと?」となるんです。とにかく結果を重視し、数字の力を活用していました。
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一方で定性的な面も重要です。社内で誰がその事業をやっているのかわからない状況はとても良くないので、変える必要がありました。当時は、社内にECの部署があることは一応知っているけど、あまり話に聞かない、誰がやっているんだろう、という状況でした。

具体的な行動として、会社の目標や文化と僕らの部門の行動を合わせていく、そしてそのためにも僕らのリソースでできることを周りの部門にも働きかけていきました。前者は前述のECとしての数字をつくりながら、社長筆頭に全国の店舗を回る「ホシキャラバン」に同行しました。後者は、コーポレートサイトの運用・改善は僕らでやりますとか、新たにLINEを導入して店舗送客しようとか。なるべく売上に直結しやすいものから始めていきました。ある種、部門の人格というか、この分野って誰がやっているから、誰に聞けばわかるよねという雰囲気を作っていきました。

浅見:中小・ベンチャー企業の中でもEC部門が置かれている状況は近しいですね。社長がやろうと言って始めるとか、競合がやっているからうちもという形で始めるケースが一番多く、アサインされた担当者もそこまで本腰を入れられていないことがほとんどです。また担当者も別業務と兼務の方も多いです。川添さんが仰る通り、売上げの99%が実店舗だから、なかなか力を入れて進められないというのは良く聞くお話ですね。

ちなみに、EC事業の改革を推し進めるに当たって、体制はどのように作られたのですか?

川添:部署内は僕と前職で一緒にやっていたシニアマネージャー1名、既存のメンバー6名でした。既存のメンバーは中途入社もいますが、キャリアとしてECやデジタルマーケティングで成果を出す経験はありませんでした。そこに加えて、Wed広告関係はすぐに外部を巻き込みました。判断基準として、社内リソースが無い時、もしくは人数が少ない時は外部を巻き込む方が良いです。例えば、リスティングへの広告出稿で20~30万円使っているけれど、別の使い方をしたらもうちょっと違うお客様が入ってくるんじゃないか、みたいな話は社内でアドバイスをくれる人など絶対にいません。その相談相手、壁打ち相手として外のパートナーを巻き込んだ方がいいと思います。その時に必要なのは、相手の引き出しをあけるための“明確なお願い”や“問い”。何のためにやるかは最初に決めたほうが良いし、そもそも他の方法ない?みたいな問いがあると、外のパートナーは協力しやすいはずです。

内製・外注のバランスはフェーズの問題なので、一概に良し悪しは語れません。ただ、全てを内製化すると自社でトレンドや他業界のヒントを追いにくい、属人化しやすいなどのリスクがある。そういう点も鑑みて、社外も含めたチームを作る必要があります。

顧客の目線で見続け、新しい地層を作る挑戦を

浅見:後半は成長後のフェーズについて伺わせてください。伸び悩みの時期を迎えているEC事業について、どのように対策をしていくのが良いのでしょうか。

川添:ECの成長に天井がくるとしたら、ブランドや商品の認知が100%になり、それ以上同じ市場が大きくならない状況です。とはいえ、その域までいく会社・ブランドは少ないですね。もう少し現実的な話で言うと、失敗の理由だけでなく、伸びている理由を運営側が理解していないというのが成長を止める一つの原因だと思います。

ECだけでなく小売において売れるというのは、地層のような構造のイメージです。顧客軸でも地層がありますし、それとはまったく別に施策・サービス軸でも地層があると思っています。顧客は新規客や、2回目、3回目…のリピーターの地層です。一方で施策・サービスに関しては、大きく跳ねるPRを除いて、1つの地層(施策・サービス)は、意図的に新たなチャレンジをしないと増えない。もし売上が右肩上がりだったとしても、改善の連続だけでは成長直線は緩やかになっていくので、新しい地層を生み出す必要があるわけです。だからこそ、毎年少しずつでもいいので、新しい地層を作るチャレンジに投資をするべきです。怠っているとどこかでしっぺ返しがくると思います。
 
浅見:確かに、自社が売れている理由を説明できる担当者様は、実は少ないでしょうね。もちろん一日の売上などは追っていると思うのですが、サイトの訪問数やKPIなど、細かく追いかけきれていない会社も多いのではないかと思います。逆に変化に敏感な担当者様が運営するサイトはやはり伸びていますね。
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川添:一つ補足をすると、新しいことを取り入れること自体が目的ではありません。新しいツールが出たから入れてみようとか、テクノロジーに踊らされてしまっては本末転倒です。基本的には顧客の立場で、お客様の課題が何で、これを使ったら・こんなサービスを用意したら課題解決に近づくかな、という目線で施策を考えていくべきかなと思います。外部環境が変化し続ければ、お客様の環境も変化していくはずなので、課題がなくなることはないでしょう。

僕は、ECが実店舗などの他分野よりもお客様を見ない理由が、大きく二つあると思います。一つ目は「やらされ感」。例えばメーカーで卸との取引で生計を立てていて、このままだとまずいから直販を作るという背景でECに参入すると、「ユーザーと接点を持ってどうなるんですか?一人のお客さんの話を聞いて何が起きるの?」という疑問が出てくるわけです。他にも会社の意向でECをはじめ、わけもわからず担当になったケース。仕事なので仕方ない部分はありますが、自分事化できずにつまずくこともあります。いずれも企業本位または担当者本位の姿勢なんですよね。お客様の立場でみながら運営をやっていないから自然と向き合わなくなる、という流れです。
 
二つ目は「分業と業務フローの明確さによるルーティーン化」です。ECって、商品をアップしてサイトに掲載されて、受注が入ると、出荷指示をつくって、ピッキング・梱包した後に出荷して、もし問い合わせが入ったら対応して…これの繰り返しで売上が積みあがっていきます。お客様からの問い合わせなどがなければコミュニケーションもないので、ECとしての流れ作業に陥りやすいです。売上とともに人数が多くなり、分業化して業務の個別最適が進むほど、誰がどんなシーンで買っているかというお客様のデータを気に留めなくなっていくんです。

創業期の方がよっぽどお客様の立場で運営をしています。なんでこの人は買ってくれるんだろうとか、この人にはおまけをつけようと判断するとか。ECと言えども、事業に手触り感があるんです。それが、規模が大きくなるほど、非効率な動きを排して仕組み化していく。人ではなく仕事に向き合うようになっていくんです。

浅見:だんだんお客様の顔が見えなくなってくるというのはおっしゃる通りですね。特に責任者の人間がその意識を忘れずに持ち続けることが重要だと思います。成長している企業の経営者はユーザーインタビューを大切にされていますよね。
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EC担当者は前向きであってほしい

浅見:最後に、川添さんがECにこれから参入する、もしくは伸び悩んでいる中小・ベンチャー企業の経営者の方、担当者の方にアドバイスをするとしたら、どんなメッセージを伝えますか?

川添:テクニック論はたくさんあるんですが、重要なのはマインドセットだと思います。数字はもちろん大事です。数字を上げることで会社の利益が得られ、人を巻き込みやすくなる。一方で、僕個人としては、どこかで面白さを感じることが大事だと考えています。デジタルの世界は、今すぐかつ誰でもできるアクションが多いし、自分起点の行動によって、売上やお客様の反応が変わったりします。1円でも多くの利益を出すのは本当に大変ですが、そこに面白みがあると思うんです。もちろん胆力みたいな要素も大事ですが、世の中や社内でやったことがない未開拓領域がまだまだあって、そこの雪を踏みしめられることを楽しめるマインドが重要だと思います。
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お店でも色々な挑戦はできるんですが、デジタルの方がその幅が広くハードルも低い。実店舗でハードや立地をすぐに変えることは難しいですが、ECであれば集客手段を変えてみようと、試しにサイトの文言を変えることができます。実店舗に比べて自分が行った施策による変化が追いかけやすいのも一つですね。

社内でやってないことがECにはたくさんあるはずです。もう少し広く捉えると、同じ業界で見てもまだ他がやっていない未開拓領域、空白地帯は意外とたくさんあります。そういうものを面白いと思う気概を持つ人がリーダーをやった方がいいかもしれません。「このテキストリンクから100万円売れています!」というwow!を楽しめないならルーティンをやった方が良い。いかに楽しんでいくかが大事だと思います。

また、EC担当者の方には、ぜひポジティブになってほしいなと思います。みんなが味方してくれない状況に置かれると、とても悲観的になりがちです。でもオセロで言えば、全部後でひっくり返る可能性がある。だから一つ一つひっくり返していこうという話です。そういう意味では、社内に閉じこもって悲観的にならずに、外の世界に触れることも大事ですね。じゃあうちもこういう風に変わるかもしれないと考えていくのが良いと思います。

浅見:まだまだECには可能性があるし、御社のように、企業のブレイクスルーになることもあります。そういう意味でも、EC担当者にはチャレンジし続けて欲しいですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。
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