Editor’s Discovery~地域から事業を成功させるため、必要なのは俯瞰で見る力。長崎県壱岐・イルカパークから島おこしに挑戦~

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2020.06.24
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日本には、より良い未来の実現のため、伝統を守り継ぐ一方、強い想いを持って新たな取り組みに挑む中小・ベンチャー企業が存在します。「中小・ベンチャー企業が咲き誇る国へ。」をミッションに掲げるソウルドアウト株式会社では、そんな企業を応援したいと考えています。「Editor’s Discovery」のコーナーでは、SOUL of SoldOut編集部が実際に企業・団体を訪れ、その挑戦のストーリーをお伝えします。今回は、長崎県壱岐島でこれまで市が運営してきたイルカパークの経営再建に挑戦する、IKI PARK MANAGEMENT株式会社 代表取締役の高田佳岳氏に、SOUL of SoldOut編集部の塩田がお話を伺いました。

※このコンテンツは、2020年3月18日に対談・インタビューしたものです。

高田 佳岳(たかだ よしたけ)
IKI PARK MANAGEMENT株式会社 代表取締役
プロフィールをみる
高田 佳岳(たかだ よしたけ)
1977年東京都生まれ。東京水産大学、ダイビングのインストラクターを経て、東京大学大学院へ。大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターに所属し、ロシア北極圏に渡航。卒業後は大手広告代理店 株式会社博報堂に就職。2015年、広告プロデュース、プランニングを手がける株式会社ハレを創業。2018年より壱岐(長崎県)へ移住し、現職。

壱岐が誇る数少ない観光施設・イルカパークを守るために

塩田:高田さんが長崎県にある壱岐島に移住して、壱岐イルカパークの再建を始めたのは今から2年ほど前だと伺っています。それまでの経緯を教えてください。

高田:私はもともと内閣府と一緒に、日本の領土や経済水域を守るため、国境離島を活性化させるプロジェクトに取り組んでいました。過疎化が進み、経済的にも縮小が進む離島を活性化させる方法を探るため、20以上の島を回り、その一つとして訪れたのが壱岐島だったんです。

島を訪れた時、職員の方から「島が誇る数少ない観光施設のうちの一つであるイルカパークが潰れるかもしれない。なんとかして欲しい」と相談されました。詳しい話を伺いつつ現地視察を行いましたが、正直、経営再建は難しいと感じました。一番の問題はそもそも稼ぐつもりで施設をつくっていなかったこと。年間3,000万円もの赤字が24年間続いていたんです。

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ただ、壱岐島の職員の方々は、子どもの時から慣れ親しんだ施設をもう一度盛り上げたい、という熱い想いを持っていて、イルカパークを起爆剤に島全体を活性化したいとも考えていました。職員の方々の想いに根負けし、経営状況の中身をよくよく見てみると、売上が上がらないのは単価が安いからで、年間2万人以上のお客様が来園しているという事実にポテンシャルを感じました。熱意に賭けてみよう、と国の地方創生推進交付金を受け取れるよう一緒に企画を練り始めました。

これまでの経験から、島全体を盛り上げるには「点」ではなく「面」で考えるのが必要だということはわかっていました。島全体で観光客が減っているのに、特定の施設だけ見直しても意味がないのです。そこで立てたのはイルカパーク再建計画ではなく、島全体の観光客誘致のための計画でした。

作成した企画書を送った結果、島全体まで範囲を広げると大きすぎて話がまとまりにくくなる可能性があるということで、イルカパーク再建に絞ったプランになりましたが、国から交付金をもらえることになりました。私の仕事はコンサルティングでしたので、細かい部分を詰めた後は別の方に壱岐イルカパーク運営会社の社長になってもらうつもりでした。ただ事情があって想定していた方の社長就任が難しくなり、市の職員から「高田さん、社長になってください」とお願いされました。

想定外のことで悩みましたが、結局、引き受けることにしました。決め手になったのは、これまでのコンサルタント業で感じていたモヤモヤとした気持ちでした。いくら良い提案ができたと思っても実際の実行フェーズまでは携われず、誰かに喜んでもらえているという実感が得にくかったのです。IKI PARK MANAGEMENT株式会社を設立し、住民票を壱岐に移して、本腰を入れて東京と壱岐の2拠点生活をスタートしました。

現在は国から助成金をもらって事業を立て直す3ヶ年プロジェクトを進行中で、2020年がプロジェクト最後の年です。

点ではなく面で捉え、島全体をテーマパークに

塩田:高田さんが壱岐イルカパーク再建に携わるようになった背景には、島民たちの熱い想いや高田さん自身が抱えていた課題感があったのですね。これまで約2年間、具体的にどのようなことに取り組んできたのかを教えてください。

高田:一番力をかけたのは島内の他の事業者と連携することです。先ほどもお伝えしましたが、そもそも島への観光客が減っている中、イルカパークだけで業績を回復させることは難しく、他の事業者との連携は必須でした。

具体的に進めていることとしては、島内の宿と提携し、宿泊客に対して宿ごとにカスタマイズした観光プランを提供できるよう準備をしています。イルカとの触れ合いは皆さまにしてもらうものの、ある宿ではトレーナーと話す時間をつくり、他の宿ではランチクーポンを付け、イルカパークで島の食材を使ったパスタが食べられるようにする、など宿泊場所によって違う体験ができるようにしていきたいです。

せっかくお客様に壱岐島に来てもらえても、どの店も同じような食事やサービス、お土産を提供しているだけだと1日で飽きられてしまいます。だからこそ2日目以降は、1日目に行ったのとは別の場所の利用や体験をしていただきたいのです。そうすればお客様に新たな魅力を提供でき、2泊、3泊としてもらえるのではと思っています。

そんな提携を宿だけでなく飲食店やお土産屋を巻き込みながら増やしています。イメージとしては、島を一つのテーマパークに見立て、パーク全体でお客様をどう楽しませるのかを考えているのです。

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塩田これまでとは違ういろいろな取り組みを進めているのですね。挑戦を進める中で苦労されたことはありますか。

高田:一番辛かったのは、イルカが死んでしまったことです。要因は様々ですが、もともと5頭いたイルカのうち3頭が10ヶ月で死んでしまいました。イルカパークのような離島の小さな施設は開園20年以上の歴史をもっていても、トレーナーの就職先にはなかなか選ばれません。トレーナーたちも必死でやってくれてはいますが、経験が浅い上に、誰も教えてくれる人がいなかったことも要因です。この辛い出来事を通じて、高いスキルを持った人材の育成は急務であると痛感しました。

また、台風にも悩まされました。実際に船や飛行機が止まるかどうかに関わらず、台風が来るという予報が出ると、観光客は予定を変えてしまいます。週末や連休に台風が重なった場合は島に人が来てもらえないことになってしまいます。

塩田:なるほど、実際にやってみて始めてわかることは多そうですね。始めに3ヶ年計画を立てられたそうですが、計画通りに進んでいるのでしょうか?

高田:2年目までに目標にしていたことは全てクリアしています。売上もイルカパーク単体で見ると伸びていますが、1年後、交付金がなくなった後でも続かなければ意味がありません。そのためにも収益化は必須です。

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地域から事業を成功させるには

塩田:難しいプロジェクトだと思いますが、計画通り進んでいるとのこと素晴らしいですね。地域から事業を成功させるために必要な考え方はありますか?

高田:私の場合は広告とコンサルティングの仕事を通じて培われたものでもあるのですが、全体を客観的な目で俯瞰して見る力が大事なのかなと思います。

地域には横のしがらみが強く、皆が周りと足並みを揃えようとする傾向があります。その上、競合に負けるわけにはいかないと武器を隠しながら事業を行っています。ただ、私からすれば周りは敵ではありません。そもそもターゲットが違うからです。同じ宿でもA社は学生向けでB社はビジネスマン向けだったりします。不要な競争は避け、自分たちの強みがどこにあるかを分析し、それを磨くことにもっと力を割くべきです。

各地域に眠っている強みは、皆さまが気が付いてないことの中にもたくさんあると思っています。魚ひとつとっても、1月終わりから2月いっぱいにかけては寒ブリやクエなど市場価格が高いものばかりが水揚げされますが、実は真鯛が絶品だったりします。しかし、その時期に売っても二束三文にしかならないので誰も真鯛をもとにして地域のブランディングをしようとしないんです。このように、中の人たちではなかなか気がつきませんが外から来た人にはわかることも多く、だから成功する人がいるのだろうと思います。

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塩田:地域の事業主にとって励みになるお話をありがとうございました。最後に、今後のビジョンを教えてください。

高田:まず、短期的には壱岐イルカパークの経営再建を果たし、自走できるようにしたいです。国のお金がなくなったら施設もなくなっちゃったね、という状況にだけは絶対にしたくありません。

長期的には壱岐イルカパークを日本で唯一無二の施設にしたいと考えています。そのために取り組んでいるのがアメリカのドルフィンリサーチセンター※のトレーニングメソッドの導入です。餌を使わないトレーニング手法で信頼関係構築と関係性だけでイルカとコミュニケーションをとります。その結果、餌を持っていないお客様でもイルカと一緒に遊んでコミュニケーションを取ることを楽しめるようになります。

世界的にもドルフィンリサーチセンターの技術を外に持ち出している企業はなく、餌を使わないトレーニングができれば、かつて誰も見たことのない、人間と遊ぶことを素直に楽しんでいるイルカたちに会える場所になります。今のところ、壱岐島にイルカパークのために来る観光客はほとんどいませんが、そうすれば「壱岐イルカパークに行きたい」と思って島に来るお客様も創り出せると思うのです。どこでも体験できない唯一無二の体験ができる場所を目指し、進み続けたいです。

※ドルフィンリサーチセンター:アメリカ フロリダ州にある海洋哺乳類の研究センター。平和的な共存、コミュニケーションを促進し、飼育しているイルカやアシカの幸福を最優先に考え、研究、救助活動、教育プログラムの提供を行っている施設。

編集後記

今回は、SOUL of SoldOut編集部 塩田が学生時代にお世話になった高田さんにお話を伺いました。私が東京海洋大学(旧:水産大学)という特殊な大学で出会った高田さんは、当時から海と自然がとても似合う太陽のような方でした。学生時代から、率先して東日本大震災の被災地の復興支援などを行っている姿を拝見し、10年前からパワフルな方だと思っておりましたが、久しぶりにお会いした高田さんは、さらにパワフルに活動されていました。

今回のインタビューでは、壱岐島全体を活性化していきたいという熱い想いを語ってくださっています。今は新型コロナウイルス感染症の影響で旅行や観光がしづらくなっていますが、高田さんが力を入れ、活性化に取り組んでいる壱岐島はさらにパワーアップしていくはずです。壱岐島に行ける状況になった際は、イルカパークだけでなく島全体の魅力を存分に楽しみたいと思っています。

SOUL of SoldOut 編集部
塩田 七海(しおた ななみ)

■サービス紹介
天然の入江を仕切って造られたイルカの海浜公園「壱岐イルカパーク&リゾート」長崎空港から飛行機で30分、博多港から高速船で1時間という好立地にありながら、天然の入江で、かわいいバンドウイルカたちとゆっくりとした癒しの時間を過ごすことができます。

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パンくず

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