産業用ドローン市場の中核を担う技術で日本発世界へ。 ヒト・モノ・カネがない中小・ベンチャー企業こそ「IP経営」を。

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2020.06.02
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未来の物流、モビリティのデバイスとして注目されているドローン。2017年に設立された株式会社エアロネクストは、ベンチャー企業として初めて「CEATEC AWARD 2018 経済産業大臣賞」を受賞するなど、その革新的な技術から業界内で注目を集めています。同社のもう一つの特徴は特許やライセンスモデルを事業の中心に据えた「IP経営」。代表取締役CEO 田路圭輔氏は、技術はあるがヒト・モノ・カネが潤沢にない中小・ベンチャー企業こそ取るべき戦略だと語ります。エアロネクスト社が考えるドローンの未来と、そのための戦略についてお話を伺いました。

※このコンテンツは、2020年2月3日に対談・インタビューしたものです。

田路 圭輔(とうじ けいすけ)
株式会社エアロネクスト 代表取締役CEO
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田路 圭輔(とうじ けいすけ)
1991年、株式会社電通入社。1999年、電通と米国ジェムスター社とで株式会社インタラクティブ・プログラム・ガイドを共同設立し代表取締役社長に就任。電子番組ガイド「Gガイド」を開発。2017年、ドローンの知財管理を専門とする株式会社DRONE iPLABを共同創業。資本業務提携を機に株式会社エアロネクストに参画し、2017年11月より同社の代表取締役CEOに就任。

重心制御の独自技術でドローン市場に挑む

ーまずは御社の事業内容を教えてください。

産業用の無人航空機ドローンの機体構造の研究開発を行っています。もう少し簡単に説明すると、機体そのものの製造ではなく、特許を中心とした知的財産の開発、ライセンス管理を行っています。コアとなるのは「4D GRAVITY®︎」という独自の重心制御技術で、分離結合構造とも呼ばれます。プロペラやモーターなどの飛行部と、カメラや荷物などの搭載部を物理的に切り離すことで、機体バランスが安定するのが特徴です。身近な例で言えば、出前で食べ物や食器を運ぶのに使われている岡持ち(おかもち)が傾かない原理と同じです。
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軸がぶれずにバランスが安定すると、壁や天井に張り付いたり、ドローン同士を合体させ上空でバッテリー交換ができたりと、これまで難しかった動きも可能になり、幅広い用途開発が可能になります。これまでも重心を安定させるための技術開発は進んでいましたが、どれもソフトウェアで制御するアプローチでした。それに対して我々は、機体フレームなどハードの面から抜本的な技術開発を進めました。実はドローンの機体フレームは30年前の登場以来変わっておらず、だからこそチャンスだと思ったんです。

ーグローバルで競争が進むドローンの分野ですが、市場はどのような状況でしょうか。

ドローン市場においては中国のDJI社のシェアが圧倒的で、今さら他の会社は勝てないと言われていました。ただ、DJI社と我々とでは狙っている市場が全然違うと思っています。DJI社は家庭用ドローンの販売がメインで、特に撮影機能に特化した機体を作っています。コンパクトな機体で操作性も良い反面、産業利用するには課題があると言われていました。

一方我々の技術を組み込んだドローンは、機体の傾きに対して安定した飛行が可能で、産業での利活用がメイン。DJI社の狙う市場とエアロネクストの狙う市場とでは求められる性能が全く違うのです。

中小・ベンチャー企業こそ、IP経営をすべき

ー御社のビジネスモデルについて教えてください。

自社が開発した技術を利用するドローンメーカーからライセンス料をもらうビジネスモデルです。電子部品に組み込まれているテクノロジーを開発し、半導体企業にそのライセンスを提供するArm社やインテル社と同じような戦略です。

ーIP(知的財産)を中心にした経営を推進されているとのことですが、具体的にはどのような戦略をとられているのでしょうか。

エアロネクストでは特許を中心とした知的財産の開発、ライセンス管理を行っています。現在250件ほどの出願特許、30件以上の登録特許があって、毎日のように特許庁とやり取りをしています。おそらくあっという間に成立特許は100件になり、1,000件になると思いますが、多分中小・ベンチャー企業でこんなことをやっている会社はないと思います。

知的財産のような無形資産を中心に据えると、ヒト・モノ・カネという、これまでビジネスに必要だと言われ続けてきたものから解放されます。すると、経営者として多くの労力を使ってきた人手不足やステークホルダーとの関係や売上利益の課題からも解放されるんです。

IP経営はベンチャー企業に向いています。ベンチャー企業にはヒトもカネもモノも、何もありません。あるのは情熱だけ。そんな中で、一番レバレッジが効く経営資源がIPだと思っています。技術力は必要になりますが、そもそもベンチャー企業は新産業を創造するために存在しているので、独自技術がないと話になりません。
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ーIP経営を志した背景にはどのようなご経験があるのでしょうか。

直接的なきっかけは前職で技術開発と知財ビジネスに携わったことです。もともと電通にいたのですが、31歳の時にアメリカの会社とのジョイントベンチャーを立ち上げることになり、その会社の代表として電子番組表「Gガイド」を開発しました。

Gガイドはデジタル放送にあるたくさんのチャンネルの中から見たい番組をジャンル別やタレント別に探したり選んだりすることを可能にするものでした。そして、自社の技術を特許化して、ライセンス形式でテレビメーカーなどに提供するビジネスモデルを採用していたんです。その会社を18年間経営する中で、業界では独占的な地位を築くことができました。

この過程で強みの技術を生かしたライセンスビジネスについて学ばせてもらった経験が大きいですね。

ーその経営手法をドローンの分野に持ち込んだのはなぜでしょう。

前職の経験から、IP経営こそある種究極の経営モデルなのではと考え、知的財産の開発・ライセンス管理をメインとする事業を立ち上げることにしました。そんな中、縁あってドローン特化型ベンチャーキャピタルであるDRONE FUND株式会社 代表パートナーの千葉功太郎氏と出会ったんです。彼から投資先のスタートアップの特許を強化する仕組みが作れないかと相談される中でドローン産業の未来に可能性を感じ、3年前、DRONE FUNDの投資先である会社の知財戦略を支援する株式会社DRONE iPLABを共同創業しました。その後、支援先の中からエアロネクストの特許に強い興味を持ち、資本業務提携したのを機に、代表取締役CEOに就任しました。

お話しした通り、IP経営の核が知財だとすると、未開拓の新産業ほどIP経営に向いています。ドローンは今後グローバルでの成長が見込まれ、IP経営に取り組むにはまさに魅力的な市場でした。

「空飛ぶクルマ」はどう実現するのか

ー今特に力を入れていることは何ですか。

人が乗れるドローン「空飛ぶゴンドラ」の開発です。空飛ぶゴンドラは、2020年1月にアメリカで開催された世界最大級の家電技術見本市「Consumer Electronics Show(CES)2020」にて海外で初めてそのコンセプトを発表しました。乗り物にとって一番重要な安全性と快適性が4D GRAVITY®︎技術を採用することで実現可能で、人が乗る機体でもこの技術が使えると示す狙いがあります。2023年には遊園地や観光地で景色を楽しむ乗り物として、空飛ぶゴンドラを社会実装したいと思っています。
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数年前から全世界で「空飛ぶクルマ」実現のための技術開発が進んでいますが、私は少し遠い未来の議論をしすぎていて、直近での実現可能性は低いと感じています。検討されているどの技術もお金がかかりすぎたり、そもそも飛ぶのが難しかったりで、今の所ヘリコプターの置き換えのような形しか実現可能性がありません。

技術的な課題より大きいのは、一般の方々が空飛ぶクルマを身近に感じられていないことです。もし、空飛ぶクルマが実際に完成しても、すぐに乗りたがる人はいないでしょう。これまで経験したことのないものに、わざわざ乗るモチベーションが湧かないのです。移動するだけなら車でいいじゃん、となるんですよね。

ユーザーにドローンで空を飛ぶことを身近に感じてもらうためには、毎日のようにドローンで物が運ばれて来たり、自分がドローンで物を運ぶ経験をする必要があります。その上で、ドローンで空を移動した人が千人、一万人、一千万人と増え、多くの人が体験をした先にようやく、移動手段として空飛ぶクルマが利用されるようになると考えています。

エアロネクストでは、今後のドローン開発に必須となる独自技術をアピールし、その結果多くの企業が市場に参入するきっかけを生み出したいです。多くのドローンが世の中に生まれ、利用されるようになったその先に、人がドローンに乗って移動するといった世界の実現があると思いますので。

市場ポテンシャルを最大化し、日本発世界へ

ー最後に、今後の展開について教えてください。

今よりもっと産業用ドローンの市場全体を大きくしたいです。中国市場へ進出した際、周りからは「技術を盗用されるのでは」と消極的な声もありましたが、私はむしろ真似されたいと思っていました。

特許の穴をつき、技術が盗用されるリスクよりも、そもそも本来であれば何百兆円というポテンシャルがあるマーケットが百億円市場で終わりました、という未来の方が怖いと思っていたんです。我々がこの技術の発表をすることで参入する企業の数もその取引金額、市場規模ももっともっと大きくできると考えていました。

重要なのは、自分たちから技術を売り込みに行くのではなく、世の中の空気を変えること。技術の優位性を伝え、我々の技術が必要不可欠な状況を作ることを意識してきました。そのためにこれまでたくさんのベンチャーピッチや国際展示会などに出展し、その結果、多くのドローン関係者に我々の技術を注目してもらえました。
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次のフェーズでは、技術の実体化と海外展開により注力します。実体化とは我々の特許技術を使ったドローンが実際に利活用されている状態を作ることです。あれもこれもと手を出すよりは、我々の技術が一番活かせそうで、かつ大きな市場になりそうな業界に絞って開発を進め、そのカテゴリーの中で名を上げたいと思っています。特に今は物流宅配領域での活用を考えています。

今後の展望を叶えるためにも、我々の独自技術を搭載した機体を量産化する体制づくりを強化したいと考えています。実は開発と量産では別の能力と経験が必要で、その両輪が揃えば、自社の独自技術をグローバルに展開していけると確信しています。


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UAV(無人航空機)やマルチコプターの機体フレームのあるべき姿を実現する、ドローン・アーキテクチャ研究所「エアロネクスト」
重心制御技術「4D GRAVITY®︎」とは?

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