浅見:今回は川添さんのご経験を元に、中小・ベンチャー企業がECにどう取り組むべきかをお伺いしたいと思います。まずは川添さんが参画された当時のメガネスーパーのECサイトの状況について伺えますか。
川添:あくまで僕の印象ですが、社内から見ると存在していないような雰囲気に近かったです。会社全体としては赤字、自社ECは3年以上売り上げが伸びていない。店舗も含めて横の繋がりがほぼなかったという環境が前提ですが、なかでもEC部署は顔と名前が見えていない状況だったと認識しています。
僕自身前職で、女性向けのアパレルの会社にいた際、実店舗がメインの会社におけるECがどういう扱いをされているかを見ていたので、それを前提において改革を進めていきました。実店舗からECに参入する企業の多くは、語弊を恐れずに言えば、ECのお客様をお客様として見ていない部分があります。対面で接しないからよくわからないし、経営陣からしたら既存事業の方が大きい中でECまで目が向かなかったり、EC担当者が報告してくる内容もよくわからなかったり。経営・現場両方に問題があります。
メガネスーパーに入ってから僕の場合はEC事業を任せられ、ある意味勝手に短期的に事業を成長させるしかないと思い、まずはお客様に伝わりやすいようなクリエイティブの改善、メルマガの回数を増やす、即日発送の商品を増やすなどを行い、一定成果が出たタイミングでECシステムを見直しました。やはり数字が物をいう世界なので、お店の基準からすれば前年対比110%が出たらすごいね、150%が続けば「どういうこと?」となるんです。とにかく結果を重視し、数字の力を活用していました。
一方で定性的な面も重要です。社内で誰がその事業をやっているのかわからない状況はとても良くないので、変える必要がありました。当時は、社内にECの部署があることは一応知っているけど、あまり話に聞かない、誰がやっているんだろう、という状況でした。
具体的な行動として、会社の目標や文化と僕らの部門の行動を合わせていく、そしてそのためにも僕らのリソースでできることを周りの部門にも働きかけていきました。前者は前述のECとしての数字をつくりながら、社長筆頭に全国の店舗を回る「ホシキャラバン」に同行しました。後者は、コーポレートサイトの運用・改善は僕らでやりますとか、新たにLINEを導入して店舗送客しようとか。なるべく売上に直結しやすいものから始めていきました。ある種、部門の人格というか、この分野って誰がやっているから、誰に聞けばわかるよねという雰囲気を作っていきました。
浅見:中小・ベンチャー企業の中でもEC部門が置かれている状況は近しいですね。社長がやろうと言って始めるとか、競合がやっているからうちもという形で始めるケースが一番多く、アサインされた担当者もそこまで本腰を入れられていないことがほとんどです。また担当者も別業務と兼務の方も多いです。川添さんが仰る通り、売上げの99%が実店舗だから、なかなか力を入れて進められないというのは良く聞くお話ですね。
ちなみに、EC事業の改革を推し進めるに当たって、体制はどのように作られたのですか?
川添:部署内は僕と前職で一緒にやっていたシニアマネージャー1名、既存のメンバー6名でした。既存のメンバーは中途入社もいますが、キャリアとしてECやデジタルマーケティングで成果を出す経験はありませんでした。そこに加えて、Wed広告関係はすぐに外部を巻き込みました。判断基準として、社内リソースが無い時、もしくは人数が少ない時は外部を巻き込む方が良いです。例えば、リスティングへの広告出稿で20~30万円使っているけれど、別の使い方をしたらもうちょっと違うお客様が入ってくるんじゃないか、みたいな話は社内でアドバイスをくれる人など絶対にいません。その相談相手、壁打ち相手として外のパートナーを巻き込んだ方がいいと思います。その時に必要なのは、相手の引き出しをあけるための“明確なお願い”や“問い”。何のためにやるかは最初に決めたほうが良いし、そもそも他の方法ない?みたいな問いがあると、外のパートナーは協力しやすいはずです。
内製・外注のバランスはフェーズの問題なので、一概に良し悪しは語れません。ただ、全てを内製化すると自社でトレンドや他業界のヒントを追いにくい、属人化しやすいなどのリスクがある。そういう点も鑑みて、社外も含めたチームを作る必要があります。