荒波:まず、日本M&Aセンターの事業内容について教えてください。
渡部:自社を売却したい企業と購入したい企業のマッチングをし、新たな未来を築いていくためのお手伝いをしています。私たちの使命は「M&A業務を通じて企業の『存続と発展』に貢献すること」。1991年の創業以来、譲渡企業と譲受け企業、そしてその関係者の方々がWin-Winとなる、ベストな形でのM&Aが実現するようにフルサポートしています。国内7拠点で日本全国を、シンガポール、インドネシアの海外2拠点でアジア全域をカバーし、主に中小企業の友好的M&Aを支援しています。
我々の特徴は、マッチングするときに売り手のご相談からスタートすること。M&Aの仲介をする多くの企業は、買い手主導で売り手を探していきます。しかし我々は逆で、まずは売り手のご相談にのって、事業、財務、法務などの調査をし、売却の意思が固まってから買い手を探しています。
手掛ける案件は年々増えており、昨年は2008年の約6倍、毎年約20%ずつ案件数が増えている状況です。
M&Aをされる企業は、実は年商2億円から10億円の中小企業が7、8割を占めているんです。最近は、上場企業、売上数百億円クラスの案件や海外の案件も出てきています。
M&Aで事業承継することのメリットとは
荒波:中小企業にとって、M&Aをするメリットはどこにあるのでしょうか?
渡部:まず、会社の透明性と公正性を保てることがメリットだと感じています。中小企業の創業者らが個人で株を持っている状態よりも、売却先の会社が持っている状態の方が、透明性が高まります。今の時代、透明性があり、パブリックな会社に人が集まるようになってきているので、公正な会社づくりをする一つのきっかけになると考えています。
また、メリットが大きいのが事業承継ですね。実際、手掛けているM&Aの約7割は、事業承継です。後継者がいない中小企業の経営者が、事業を売却することで得るものは大きいと思います。実は売り手側の年齢が若くなってきていて、今は55歳くらい。私が入社した当時よりも4、5歳若くなっています。
一概には言えませんが、経営者は65歳くらいを過ぎてくると段々とチャレンジをしにくくなる傾向にあります。例えば、製造業で年商10億円の会社が1億円の機械を買って、だいたい15年で投資の回収計画を立てるとします。経営者が65歳だったら、なかなか投資の判断をしにくいですよね。そうすると、大きな施策が取れなくなっていくので、働いている社員も仕事をする楽しみが減っていってしまいます。加えて、だんだんと判断能力も落ちてくる。それに気づかず経営を続けて、判断を間違えてしまうケースもあります。
そうなる前の、会社が伸びている時期にM&Aをするのは良い手です。まず会社の後継者問題を解消することができますし、経営者としても新たな挑戦をすることができます。理想系は、55歳から60歳くらいの間に売却をし、その後も5年ほどは社長として経営を担い、しっかり次の代に繋ぐ。そうすれば、会社の存続に頭を悩ますことなく、買い手の企業の資産や資本を使いながら、経営者としても挑戦を続けられます。
自分の指示が行き届き、統制が効いている状態を自由だと思う人もいると思いますが、信用力や優秀な人材、より資本がある状態を自由だと感じる経営者も多いです。そういう方にはぜひ、M&Aに踏み切って、企業価値を高め、経営者として違うステージで新しいチャレンジをして欲しいと考えています。それにより、創業者が夢を叶えるケースもあるんです。
例えば、ある電気工事会社の社長は、自社のユニフォームで仕事をしたいという夢を持っていたそうです。しかし現実は、大手企業のユニフォームを着て、下請けの仕事をしなければならない状態でした。しかし、自社を直受けの会社に売却した結果、自社のユニフォームを着て働くことができるようになった。M&Aによって夢を叶えたんです。
他には、会社を買いたいと思っていた社長が、結果的に自社を売却するケースもあります。例えば、薬局を経営していて1店舗だけ地元で買いたいと考える経営者の方がいました。しかし購入に向けいろいろな話を進めていく中で、1店鋪だけを買うよりも1,000店舗の薬局を持っている業界トップの会社に自社を売った方が、システムもよくなるし、仕入れ値も下がる、社員も転勤しやすい、といったメリットが見えてきたんです。結果的に、会社を売却することにしました。こういった事例は多いですね。
海外に比べ、実はわずかしかない敵対的な買収が報道されやすい影響で、日本でもM&Aに対するマイナスイメージがあります。しかし実際は、中小企業のM&Aはミドルリスク・ミドルリターン。私はプレイヤーとして中小企業100社ほどのM&Aを手がけてきましたが、1社も減損していません。売り手のオーナーも経済的に得をしていますし、買い手も回収率が高い。手堅い選択肢だと思います。ハイリスク・ハイリターンなのは上場企業やベンチャー企業、海外の企業のM&Aですね。
中小企業にとって、M&Aは目的によって選びうる、ポジティブな選択肢だと考えています。