企業-行政-地域との豊かな繋がりを作る。地域活性化起業人として活躍する釜石市 池井戸さん×雲南市 梅澤さん対談

仲間・文化
2024.06.19
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3大都市圏の民間企業の社員が地方公共団体に一定期間入り、自分のスキルやノウハウを活かして地域を活性化させる取り組みを行う地域活性化起業人制度。ソウルドアウトでは、地域活性化起業人制度を所属する会社の仕事と兼務する形で取り組んでいます。その働き方や得られるメリットについて、岩手県釜石市の地域活性化起業人の池井戸葵さん(マーケティングカンパニー デジタルマーケットデザイン本部 ストラテジックプランニンググループ)、島根県雲南市の地域活性化起業人の梅澤宏徳さん(マーケティングカンパニー LTVマーケティング本部  LTV第2グループ)に話を聞きました。

釜石と雲南。それぞれの地域活性化起業人としての活動について

──お二人の活動について教えてください。

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池井戸:私は岩手県釜石市で活動しています。ミッションが特に決まっていない状態からスタートしており、「地域の宝を発掘し、磨いて広めていこう」を主軸に、割と幅広くいろいろなことをやらせていただいています。

たとえば、地域コンセプトの定義付けや観光サイトの制作、理念作りなど。最近は津田商店様という創業90年の水産加工業者と一緒に、地域の新しいブランド作りに取り組んでいます。津田商店様との取り組みのきっかけは、地域で開いたマーケティングセミナーにいただいた問い合わせでした。津田商店様は学校給食で使われる煮魚などの水産加工品を50年作っている会社なのですが、それ以外にも販路を拡大しようとされていたんですね。

そこで、この魚の勝ち筋を見つけようと思い、いろいろな方へのヒアリングを開始しました。営業社員さん、工場長、工場の課長、役員、異なる部署、役職の方に話を聞いたところ、「うちのお魚はおいしいんですよ」「子どものためにかなりこだわって作っています」と強い思いが共通していることがわかりました。その思いを受けて、「これはBtoCで売れると思うので、一緒にやってみませんか?」と提案し、一般消費者向けのECサイトを立ち上げることにしたんです。

梅澤:ゴールを決めていたわけではなく、あくまでも関係者にヒアリングをしたことで方向転換に至ったんですね。もうサイトはできているんですか?

池井戸:できました。22年7月から動き始め、23年8月にD2Cブランド「子どもようおさなかさん」のECサイトをオープンしました。10月にはお魚のギフトを作りました。釜石といえば海鮮で、「魚の町 釜石」と言っているくらいなんですが、そんな町らしさが表れている新しい贈りものができたかなという想いです。

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こどもようおさかなさん公式HP(https://shop-osakana-tsudashouten.jp/

梅澤:私は自分の地元でもある島根県雲南市で活動しています。ミッションは「ソーシャルチャレンジバレーの強化促進」。雲南市は「日本一チャレンジに”やさしい”まちづくり」を掲げ、「チャレンジ」の推進を条例にも掲げている変わった自治体です。いい意味で自治体が介入しすぎず、地域の主体者になり得る住民のチャレンジを応援するというスタンスで、10年以上チャレンジを軸にした町づくりを推進してきたという経緯があります。

この取り組みの背景には、東京23区と同じくらいの面積に人口3.5万人しかいないという事情があります。行政機能だけでは地域運営が難しいからこそ、行政に頼らず住民が主体となった地域を作ろうとしているんです。釜石市と異なるのは、雲南市は地域活性化起業人制度の協定に加えて、企業チャレンジという独自協定も結んでいるところですね。

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池井戸:どういう制度なんですか?

梅澤:ソウルドアウトのような市内外の民間企業が地域に入って行う、地域の課題解決に繋がる、新規事業開発や新規商品開発の活動を支援する制度です。

私の取り組みの大枠は、様々な角度からチャレンジを促進していくこと。地域の担い手をデジタルを通じて増やすことを主軸に、民間出身であることを生かし、市内外の人々の繋がりを作る企画や情報発信、都市部の民間企業と雲南市との連携サポート、市内の企業や個人のデジタル活用支援、等に取り組んでおります。

その中でも最も注力しているのは、デジ×チャレ(※)ですね。簡単に説明すると、雲南市でデジタル人材を育成し、ゆくゆくは就業支援まで行う人材育成プログラムです。雲南市には高校卒業後に通う専門学校や大学がなく、若者が流出してしまうという課題があります。卒業後に戻ってきたいと思っても、製造業メインで雇用のバリエーションが狭いんですね。

雲南市では各高校にNPO等の民間が入りキャリア教育をしています。意志ある優秀な若者が育つ環境は整っているんですが、雇用先がないと育てた人材がみんな外に出ていってしまいます。そのため、リモートワークでも活躍の場が広いデジタルスキルを習得できる環境が必要なのではと考え、デジ×チャレ事業を行っています。2023年から市の皆さんと連携し、事業の企画から推進してきまして、これまで2期のプログラムを実施しました。市としては初めての取り組みでしたが、毎回、募集枠に対してほぼ満席~多い時は3倍以上の応募があり、一定の手ごたえを感じています。また、他の地域からもお問い合わせをいただくことが増え、同じ課題を抱えている協力できそうな地域が全国に多く存在することも分かりました。

池井戸:プログラムは有償・無償どちらなんですか?

梅澤:やる気のある方に参加いただき、最後までコミットいただくためにも、有償にしています。それでも応募が多く、30代をメインに20代、40代と幅広い受講生がいます。柔軟な働き方ができるため女性や子育て層、また移住に興味がある受講生も多いので、人口増にもつなげられるのではないかと期待しています。ここから都市部企業への人材紹介につなげ、「日本一チャレンジに”やさしい”まち」を掲げる雲南市で、日々頑張ってチャレンジしている”人の魅力”を軸に、市外からの収入を獲得し地域内にお金を流せる仕組みを作れないかと取り組んでいるところです。

※2023年12月にリリース配信した「デジチャレ」第2弾の募集ニュース
https://www.sold-out.co.jp/news/topic_20231204
 

東京で得られる最新情報を地域で活かす。兼務ならではのメリット

──地域活性化起業人制度のメリットは何でしょうか。

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池井戸:公の立場として地域に赴くため、知り合いの輪が広がりやすいのかなと思います。地域のことも教えていただけるので、視点が増えたかもしれません。地域のためって言いながら、自分たちに都合がいい提案をしてくる企業って多いんだよね、という声をけっこう耳にしました。そういう声も踏まえて、できるだけ、地域や企業に寄り添った提案をしようと考えるようになりました。

梅澤:民間企業のリソースを地域に活用したい場合、即座に地域100%で入ることも非常に重要ですが、難しい企業や人が多いのも実情です。多くの企業を早く地域に巻き込むには、多様なフェーズのグラデーションを作ることが重要だと考えています。最初の一歩を始めるキッカケを作る意味では、総務省から支援金が出ることは、民間企業と自治体の実施ハードルを下げる点になっていると思います。また、兼務しやすい制度であることも、いきなり人的リソースを全て出す訳では無いので、企業側のハードルを下げていると思います。私は今でも東京で営業を半分やっていますし、池井戸さんも弊社での仕事と並行しながら釜石で取り組まれています。すると、思考や情報が都市部と地域とでいったりきたりするんです。地域での活動で得たものを東京に還元できることもありますし、東京で得た新しい情報を地域の行政に提供することもある。兼務無しの出向で地域100%になるとリソースは増えますが、いずれ知見や情報が枯渇するタイミングがくるだろうなと思うので、兼務での取り組みは会社・地域双方にメリットがあるものだと思います。

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あとは、非常勤職員=行政職員として地域に入ることができるのもメリットですね。外部からきた企業の人間としてではなく、信頼がある自治体の職員として地域内の方々と関係を作っていきますので、求める方と良い関係をスムーズに築けたり、また自力では連携が難しい団体と協業をすることができます。東京の民間企業の人間として地域の企業に話に行くと、不安を感じて話をなかなか聞いてもらえないといったこともありますから。

東京と行き来できる良さは、他の企業とのつながりを広げられる点にもあります。東京に来ているときにいろいろな企業とつながりを広げ、その上で地域と接点が持てるんですよ。実際、東京のイベントで知り合ったお客さんを雲南市の視察につなげられたり、次年度の事業を一緒にやろうといった話を進められたりしています。

──ソウルドアウトだからこそ生み出せたシナジーはありますか?

池井戸:地域との信頼関係の作りやすさですね。あと、先ほど梅澤さんがお話していたように、私も兼務の良さを実感しています。私の場合は所属しているデジタルマーケットデザイン本部が全面的に応援してくれていて、1on1の時間で色んなアドバイスを頂けているんです。地域で得られる情報には限界がありますし、マーケティングのプロだからこそ得られる事例や情報を教えて頂けるのはとても心強いですね。このチームに居られて良かったなぁと思います。

梅澤:シナジーに関して思うのは、地域でデジタルマーケティング人材育成事業を行うにあたって、会社で行っている営業の仕事経験が活きていることですね。都市部で会社の利益目標を追いながら最前線で事業をしているからこそ、デジタルマーケティング業界の現状や必要なスキルについて受講生に問われたとき、机上の空論ではない実のある回答ができます。教育業界において、実務経験と両輪で回せるのは非常に強みになるのではないかと思います。教育系企業さんがもっとこの制度を導入したら面白いんじゃないかと思いますね。

2足の草鞋の魅力。地域活性化起業人の働き方

──会社の仕事と兼務し、東京と地域とを行き来できるのがメリットだというお話でしたが、お二人はどのような働き方をしているのでしょうか。

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池井戸:私は月に1回、1〜2週間東京にいます。想像していたより生活スタイルになじめましたね。もともと、日常に刺激がほしいタイプなのもあるのかもしれません(笑)。

釜石から東京までは片道5時間かかるのですが、移動時間がアイディアを生み出せる機会になっていて無駄にはなりません。都心の暮らしと自然に恵まれた釜石の暮らしを両方楽しんでいて、釜石の暮らしが楽しくて仕方がないですね。大変なことがあるとすれば、資料系の忘れ物でしょうか。釜石の自宅に参考資料を置いてきてしまい、東京で「今あれが見たかったのに!」となることはありますね(笑)。

梅澤:「兼務って大変でしょう?」と言われますけど、個人的にはそんなことはなく、大変なことは特に思い浮かばないです。地元が好きですしね。自然に囲まれて暮らしたい地域が好きな人からすると、実際に地域に身を置ける地域活性化起業人の働き方はマッチするんじゃないでしょうか。

地域の力になりたくてソウルドアウトに入社したので、行政に入り、地域のことを理解しながら働けるのがありがたいですし、うれしいですね。営利企業と行政とではものの考え方が違う部分がありますので、両方を経験することで俯瞰して考える力を身に付けられると思います。
 

本業で経験を積み、地域で新しいことをしたい開拓精神のある人に向いている制度

──どのような方がこの制度に向いていると思いますか?

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梅澤:雲南市では地域ファーストといいますか、地域の利益を第一に考えられる人がいい事業を生み出せていると感じます。あとはある種のノリの良さといいますか、フットワークの軽い人。開拓精神がある人、新しいことを生み出すのが好きな人でないと、プレッシャーでしんどくなってしまうかもしれません。苦しいときもあるけど、とりあえず一歩進める人だといいですね。セルフマネジメント力は重要です。

池井戸:私は会社から声がかかって地域活性化起業人制度に参加したのですが、実際に始まってみると、期待に応えなければと思ってつらい時期があったんです。そこで「自分が出来ることをどんどんやってみよう」と切り替えられたのがよかったのかもしれませんね。想定した通りに進まなくても、「これは違いそう」という結果が分かったということですし。失敗してもいいから進むことが大事だなと学びました。

地域の皆さんは歓迎ムードで受け入れてくださるんですが、それと同時に東京から専門家が来たと思っていただけているところもあるため、そうした地域からの期待に応えられる何かは大事かもしれませんね。

梅澤:そうですね。会社での仕事経験を積み重ね、もっと視野を広げていきたいなという人にとっては、新たな刺激になっておもしろいと思います。

──今後の展望、それに向けた今の課題についてお聞かせください。

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池井戸:私の地域活性化起業人としての活動は2024年6月末で一旦終了しますが、引き続き釜石市の魅力を全国に発信していきたいですね。津田商店様のような、地域の宝となる企業は他にもあると思っているので、そうした企業を発掘して磨き、地域の新たな商品を作っていきたいです。売上向上はもちろん、その企業で働く誇り、ひいてはその地域で暮らす人たちの誇りにつなげられたらいいなと。移住・定住サイトにそうした情報が載り、「こういう仕事がしたいから移住したい」という方が東京からやってくるという循環を生み出したいですね。

今はその仕組みがないのが課題です。今日梅澤さんと話していて、一緒に取り組むことでその課題を打破できるのではと感じたので、また相談したいです。

梅澤:ぜひお話しましょう。

私の展望は、どこでも、だれもが自分の才能・やる気を最大限に生かし、自分らしく生きれる環境・仕組みを作っていくことです。好きな地域で暮らしながら自分らしいキャリア形成ができる、そんな地域のロールモデルを、雲南市で作っていきたいです。デジタルの力を使うことで、「仕事」を時間や場所という制限から解放し、キャリアの選択肢を広げていけると考えています。

課題は挙げるとキリが無いです(笑)ただ、活動していく中で、類似したテーマで活動する地域が全国にあることに気付きました。まだ確立されていない領域だからこそ、地域間で情報やリソースをシェアしながら、課題を解決していける繋がりを作って行きたいです。

国内の生産力が低下していくなかで人材活用は大きなテーマ。日本が世界に先駆けて直面している人口減少・少子高齢化の問題を少しでも解決し、会社が掲げる「地方発全国・日本発世界」を体現できるような事例を、少しずつ作っていけたらと思います。

パンくず

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